雇用保険と雇用保険料について
雇用保険について
雇用保険とは、失業した労働者の生活と雇用の安定を図るために雇用保険法に定められた保険です。
雇用保険は政府が管掌し、一人でも労働者を雇っている事業所は強制加入、労働者も条件を満たした場合は強制加入になる保険です。
労働者が強制加入になる条件は2つあり、そのどちらも満たす必要があります。その2つとは「週の労働時間が20時間以上である」ことと「31日以上引き続き雇用される見込みである」ことです。
参考URL:「雇用保険法」
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S49/S49HO116.html
失業等給付分と雇用保険二事業分に分かれる
雇用保険は失業等給付と雇用保険二事業に分類されます。雇用保険料は、雇用保険にかかる保険料のことで、この2つの事業のために徴取されます。失業等給付の保険料は、労働者と事業主が折半で支払い、雇用保険二事業の保険料は事業主が100%負担して支払います。
参考URL:「厚生労働省:労働保険の年度更新とは」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhoken01/kousin.html
失業等給付とは
失業中の生活を保証するもの
失業等給付は4つの給付から成り立っています。その4つとは、「求職者給付」「就職促進給付」「教育訓練給付」「雇用継続給付」の4つです。
このうちの求職者給付は、事情があって職を失った労働者が次の就職先を見つけるまでに安定した生活ができるように給付される金銭のことで、俗に失業保険と呼ばれています。
参考URL:「ハローワークインターネットサービス:雇用保険手続きのご案内」
https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_guide.html
雇用保険二事業とは
失業等給付の給付減を目指す失業者への再就職支援
雇用保険二事業は、雇用安定事業と能力開発事業の2つの事業のことです。これらの事業は、安定した雇用を確保することによって失業等給付の全体的な支出額を減らそうという目的があります。
雇用安定事業について
雇用安定事業とは、事業主に対して助成金を出し雇用先の確保を行ったり、中高年者や若者・子育て中の女性に対する就労支援を行う事業です。
例えば、事業主に対する助成金でいうと、若年者や中高齢者の施行雇用を促進するトライアル求人制度や、仕事と子育ての両立を支援する育児・介護雇用安定等助成金などがあります。若者や子育てをする女性に対する就労支援では、ジョブカフェやハローワークのマザーズコーナーなどがあります。
能力開発事業について
能力開発事業とは、企業に在職している労働者や離職者に対して職業的な訓練を行い、その能力を開発する事業です。ハローワークで募集されている介護初任者研修やパソコン研修などがそれに当たります。また、一定の要件を満たした通信教育などを受講した労働者が受講費の補助を受けることができる教育訓練給付制度もこの事業です。
参考URL:「厚生労働省:雇用保険二事業について(PDF)」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/12/dl/s1204-5c_0009.pdf
《気をつけるべき数字1》雇用保険料率
事業の種類によって定められた雇用保険料の率
雇用保険は、該当する労働者の賃金総額に業種ごとに定められた雇用保険料率を掛け合わせることによって算出します。この保険料率は、事業の種類によって3種類に分けられています。
3種類の事業とは「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3種類です。下の図は厚生労働省が発表した平成28年度の雇用保険料率です。
(出典:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/index.htm)
平成28年度から、失業等給付に関する雇用保険料率が1/1000、雇用保険二事業に関する雇用保険料率が0.5/1000引き下げになっています。
参考URL:「厚生労働省:雇用保険制度」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/index.html
雇用保険料の計算方法
雇用保険料=賃金総額×雇用保険料率
先ほども触れましたが、雇用保険料は労働者と事業主の折半で支払う「失業等給付」分と事業主のみが支払う「雇用保険二事業」分の保険料があり、どちらも該当する労働者の賃金総額に雇用保険料率を掛け合わせて算出します。ここでは、その内容について具体的に見ていきましょう。
《気をつけるべき数字2》賃金総額
賃金総額とは、労働者に支払っている給与のうち基本給の他に諸手当も入った金額です。具体的には
*基本給・固定給等基本賃金
*手当:超過勤務手当・深夜手当・休日手当等、扶養手当・子供手当・家族手当等、宿、日直手当、役職手当・管理職手当等、地域手当、住宅手当、教育手当、単身赴任手当、技能手当、特殊作業手当、奨励手当、物価手当、調整手当、通勤手当(定期券・回数券等)、休業手当
*賞与
*雇用保険料その他社会保険料の労働者負担分を事業主が負担する場合はその額
*前払い退職金
となっています。特に注意したいのは、賞与が含まれる点と通勤手当の中に定期券や回数券等が含まれること、休業手当が支給されている労働者についてもかかるという点です。
また、一時的に労働者に支払ったもので労働の対価と言えないものについては賃金総額には含めません。具体的には、慶弔費や休業補償金、退職金などがあります。
参考URL:「厚生労働省:労働保険料等の算定基礎となる賃金早見表(例示)
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/daijin/hoken/980916_6.htm
《気をつけるべき数字3》失業等給付の保険料率
失業等給付の保険料率は、労働者と事業主が折半するのでした。労働者の負担額よりも事業主の負担額の方が多く、業種ごとに率が異なる部分に注意しましょう。
《気をつけるべき数字4》事業主負担分の保険料率
事業主が負担する保険料率は、失業等給付の保険料率と雇用保険二事業の保険料率でした。労働者への給与明細には出ませんが、事業主の負担額は労働者が負担する率の倍近くになります。
雇用保険料の計算例
一般事業での双方の負担額を調べる
それでは、ここで一般事業などで働いている労働者一人あたりにかかる雇用保険料について、実際に計算してみましょう。実務の面では、給与計算ソフトに計算式が入っている場合が多いので自分で電卓を弾く機会はあまりないと思いますが、小さなプロジェクトの予算立てのシーンなどで役に立つ場合もありますので一度やっておくのもいい経験になりますよ。
※一般事業勤務、賃金総額35万円、平成28年度の場合
まず、先ほどの画像から保険料率を出します。一般の事業ですから、労働者負担分の保険料率は4/1000です。事業主の負担分は、7/1000です。ですので…
・(労働者負担分)=350,000円×0.004=1,400円
・(事業主負担分)=350,000円×0.007=2,450円
となります。
端数が生じた場合の対処方法
計算したときに一円未満の端数が生じてしまった場合はどうしたらいいのでしょうか。その場合は、四捨五入をすることになっています。具体的には
・50銭以上を切り上げ
・50銭未満を切り捨て
します。先ほどの例はきっちり計算できましたが、もし計算結果が1,400.60円になった場合は、小数点以下が50銭以上になるので切り上げを行い1,401円になるということです。
《気をつけるべき数字5》65歳以上が免除対処ではなくなる
平成29年1月1日以降は65歳以上も雇用保険の対象になる
雇用保険制度の改正によって、今までは雇用保険に入れなかった65歳以上の労働者も雇用保険に入れるようになります。この措置は平成29年1月1日以降からとなっていますので、この時点で満65歳以上の人を雇用した場合は、雇用保険の加入手続きが必要になる場合があります。
平成32年度からは満64歳以上でも雇用保険料が徴収される
現在は、雇用保険料が免除されている満64歳以上の労働者ですが、平成32年度からは雇用保険料の支払いが必要になります。高齢者が活躍している事業所では、雇用保険料の負担が多くなる可能性がありますので注意が必要です。
なお、雇用保険への加入条件等は、一般の労働者と変わらず、週の労働時間が20時間以上でなおかつ、31日以上の雇用が見込まれるときになります。また、改正に伴う諸手続きについては厚生労働省の該当ページに案内が掲載される予定です。
参考URL:「厚生労働省:雇用保険制度が変わります」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000122931.pdf
雇用保険の加入・非加入の確認方法
自分が入っているどうかの確認方法
基本的には、自分が雇用保険に入っているかどうかの確認は「雇用保険被保険者証」で明らかになるのですが、事業所によっては本人が退職する際には渡すけれど、平時は総務部で保管しているという会社も多いようです。また、本人が受け取っていたとしても紛失してしまったり、受け取ったことを忘れてしまっている場合もあります。
そんな時に、事業所に問い合わせずに雇用保険の加入状況を知ることができるのが「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」です。この表を自分が勤務する事業所を管轄するハローワークに提出することで、自分の雇用保険の加入状況を知ることができます。申請に必要な項目は
・氏名
・生年月日
・事業所の名称
の3つです。その他に本人であることを確認する本人確認書類が必要になります。また、この申請はパソコンからも申請することができます。ハローワークインターネットサービスから行えますので、気になる方はこちらから申請をしてみてください。
申請URL:「ハローワークインターネットサービス: 雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」
https://hoken.hellowork.go.jp/assist/600000.do?screenId=600000&action=koyohohishikakushuKakuninLink
勤め先が雇用保険に入っているかどうかの確認方法
雇用保険は事業所と労働者が折半して保険料を支払うものでした。つまり、勤め先が雇用保険に加入していなければ、そもそも労働者本人も雇用保険に加入できないということになります。自分の務める事業所が雇用保険に入っているかどうかを確認するのは、厚生労働省のホームページですることができます。
検索URL:労働保険適用事業場検索
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/daijin/hoken/980916_1a.htm
この検索ページから、誰でも検索をすることができます。パソコンの設定によってはポップアップウィンドウがブロックされてしまう場合がありますので、その際は検索ページ下部のPDFを参考に対応をしてくださいね。
雇用保険の使い方
失業給付を受け取るための3つの条件
本文:失業保険の受け取り方についても簡単に解説します。失業保険というと退職したら誰でも受け取れるイメージがあるかもしれませんが、実は3つ条件があり、この条件を満たさずに受給すると不正受給となってしまう場合があるんです。
3つの条件とは
・本人に就職する意思があるのに職がないこと
・本人が積極的に求職活動を行っていること
・退職日以前の2年間に雇用保険の被保険者であった期間が12ヶ月以上あること
の3つになります。このうち最初の1つが特に不正受給になりやすい条件です。例えば、会社を退職した後大学院に進学する予定の人間が失業給付を受けようとしたり、結婚退職した人間が働く気もないのに失業給付を受給したりする場合は不正受給になります。後の項目で解説しますが、雇用保険の不正受給には厳しい罰則がありますし、不正受給が明らかになる場合の多くが告発によるものです。
失業保険の受け取り方
失業保険を受け取る手順です。失業給付を受け取るためには、事業所を退職後に発行される「離職票
を持っていかなければなりません。この離職票は労働者が退職したときに事業所がハローワークで手続きをとって、本人に渡さなければならない書類です。手続きが遅れると退職した労働者に不利益が生じますので、退職後10日以内に手続きをとるように定められています。ですので、退職後10日以上経過しても事業所から離職票が送られてこない場合は、事業所に問い合わせをした方がいいでしょう。
ハローワークを訪れてから実際に失業保険が給付されるまでの流れはこのような流れになっています。
1.ハローワークにて、求職の申し込み後離職票など提出。
2.雇用保険受給者初回説明会に出席(雇用保険の受給方法などの説明がされます)
3.失業の認定(失業保険の受給には失業中であることが条件です。4週間に1度ハローワークを訪れ求職状況などを報告しなければなりません)
4.失業保険受給(失業が本人理由か、事業所理由かによって振込みまでの日数が異なる)
詳しい持ち物や、流れについてはこちらのハローワークインターネットサービスのページを参照してください。
参照URL:「ハローワークインターネットサービス:雇用保険の具体的な手続き」
https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_procedure.html
知っておきたい不正受給の条件
働く気がないにもかかわらず、失業保険を受給していたり、働いているにも関わらず失業保険を受給している場合は、不正受給とみなされます。不正受給していることを知りながら働かせてしまうということのないように、不正受給とされる事例について大阪府労働局のホームページから引用しますね。
”
1. | 就職や就労をしたことを申告しなかった場合。(パート、アルバイト、日雇い、試用期間、研修期間を含む。)。 ≪収入がない場合であっても申告が必要です。≫ |
2. | 就職日を偽って申告した場合。 |
3. | 内職や手伝いをしたこと。またその収入があったことを申告しなかった場合。 |
4. | 自営(保険代理店等を含む)を始めたこと、または、その準備をしたことを申告しなかった場合。 |
5. | 会社の役員(名義だけの役員を含む)や非常勤嘱託、顧問などに就任したことを申告しなかった場合。 |
6. | 健康保険による傷病手当金や労災保険による休業補償給付などの支給を受けたこと。また、受けようとすることを申告しなかった場合。 ≪雇用保険と重複して給付は受けられません。≫ |
7. | その他、就職ができる状態でなくなったこと。 ≪失業の状態ではありません≫ |
1. | 本人であるかのように偽って、他の人に失業の認定を受けさせた場合。 |
2. | 医師の証明書や求人者の証明書等を偽造したり不正に発行を受けて提出した場合。 |
3. | 離職理由を偽り、基本手当を受けた場合。 |
4. | その他、本来受給できない者が偽りの申告をしたり、申告しなかったこと等により基本手当を受けた場合又は受けようとした場合。 |
引用元:「大阪府労働局:不正受給について」
自分達が思っている以上に、雇用保険受給の基準は厳しいです。失業の認定の際の書類には包み隠さずありのままを申告することが必要ですが、自己判断で間違った申告をしてしまわないように、迷ったときは管轄のハローワークに聞いてみるのがベストですね。
まとめ
いかがでしたか、雇用保険料を計算するに当たって注意しておきたい5つの数字について解説をしてきました。給与明細に書かれている数字以上の額を会社が負担していることに驚いたのではないでしょうか。複雑に思える雇用保険の計算も、年度ごとに改正される保険料率とそれに掛け合わせる賃金総額について押さえておけば、そんなに難しいものではありません。特に、給与計算においては自動で計算してくれるソフトが大半ですので実務で難を感じることは少ないでしょう。
また、雇用保険の不正受給についてもご案内しました。失業保険の受給については厳しい罰則もあります。知らなかったではすみませんので、しっかり押さえておきたいですね。