労災の休業補償給付が支給されない場合
療養の状態にあり、労働ができないことが給付の要件とされています。従って医師の証明をうけることが給付の要件となり、例えば病院に通わず休業となれば支給されません。
なお、企業から休業補償を支給している場合は、支給する額が減らされます。これは計算方法の解説でふれます。
申請の流れと提出書類
休業補償給付の申請書(業務災害の場合は様式第8号、通勤災害の場合は様式第16号の6)を被災労働者本人が労働基準監督署に提出します。
後述のように休業補償給付は労働者の平均賃金に基づいて金額が決まりますので、平均賃金算定内訳や、裏付け書類として被災前3カ月程度の賃金台帳・出勤簿(もしくはタイムカード)を添付します。印は労働者本人・事業主の他、診療を担当した医師からも(診療担当者の証明欄に)頂く必要があります。
なお、事業主の証明がない場合でも労働者本人は申請できます。労災を認定できる状況にあるのに、事業主の意向に左右されて申請できなくなるのは問題だからです。
また、この申請においてはマイナンバーの記載はありませんので、その点はご安心ください。休業補償給付の請求時効は2年です。時効にならないうちに申請する必要があります。
労災の休業補償はいつから支給されるのか
申請してから実際にもらえるまでの間に労働基準監督署による調査がありますので、実際に支給されるまでに1ヵ月以上かかる傾向にあります。
休業の当初に休業補償給付がもらえない月は、労基法違反にならないよう企業側が休業補償を支給しなければならなくなります。
その間は休業補償給付の相当額を企業が支払い、労災認定された段階で国から企業側の口座に入金になるよう、受任者払いの申請をすることもできます。
労災の休業補償はいくら支給されるのか
まず休業補償の算定期間としては、休業後4日目からとなります。3日目までは待期期間として給付の対象になりません。
その後1年6カ月経過し、傷病が治り所定の状態になった場合には障害補償給付、治らず所定の状態に場合は傷病補償年金がもらえます。このどちらかがもらえるような状況になると、休業補償給付は打ち切りとなります。
1日あたり、休業給付基礎日額の6割が休業補償給付として得られます。これに加えて、休業給付基礎日額の2割が休業特別支給金としてもらえます。
休業給付基礎日額は1日あたり平均賃金より決まりますが、この計算方法については後述します。
労災の休業補償の計算方法
休業給付基礎日額は、事故発生日3カ月間の平均賃金より求めます。平均賃金は、原則的には下記の算式で求めます。
3カ月間の総額 ÷ 3カ月間の総日数・・・(A)
正社員の基本給のような固定給だけであればこの計算だけでもよいのですが、残業手当のように時間に応じて変わる手当がある場合、またはパートタイマーのように時間給制の場合は、以下のような計算も行います。
3カ月間の賃金 ÷ 3カ月間の労働日数 × 60%・・・(B)
残業手当のついた正社員の場合は、固定給部分については(A)で計算し、残業手当の部分については(B)で計算して(A)と(B)を足します。これを(C)とします。
パートタイマーの場合は、(B)=(C)となりますね。(A)と(C)を比較し、高いほうの金額を平均賃金とします。
支給されるケースの計算例
給与締日は末締めとし、4月1日に労働災害が発生したとします。この場合、1月1日~3月31日の3カ月間の給与を平均賃金の対象とします。(うるう年ではないとします。)
また、給与は下記の通りとします。
- 基本給等の固定給:20万円
- 残業手当:1月2万円、2月1万円、3月3万円
- 労働日数:1月20日、2月20日、3月22日
- による平均賃金の計算は、
(22万円+21万円+23万円) ÷(31日+28日+31日)=7,333円33銭
分母は暦日数なので、労働していない休日も含めます。また1銭未満は切り捨てます。
(C)による平均賃金の計算は、
20万円×3 ÷(31日+28日+31日)
+(2万円+1万円+3万円)÷(20日+20日+22日)×60% = 7,247円30銭
(A)による計算法のほうが大きいため、休業給付基礎日額は7,333円33銭となります。
休業が約1年6カ月の543日続いたとすれば、待期期間3日を除いて
7,333円33銭×60% + 7,333円33銭×20% = 5,865円
(日額、足し合わせる前に円未満は切り捨て)
5,865円×540日 = 3,167,100円もらえます。
その他注意事項
休業補償給付の申請のように労災認定が伴う場合、企業側からも労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を提出してください。これを報告しないと、「労災かくし」になってしまいます。
また労働災害の場合は、待期期間3日間の休業補償は事業主から支払わないといけません。
まとめ
休業補償給付の申請は労働者本人が行いますが、事業主の証明が必要ですし、企業側も死傷病報告の手続きをします。
また平均賃金の計算も複雑なところがありますので、企業の法務・総務担当者が手続きや計算方法を知っておく必要があると言えます。