社会保険への加入は法律上は全法人が加入対象です。
法律上、法人は加入義務があり全事業所が加入しなければいけません。
ところが実際には加入していない法人事業所も結構あり、その会社に勤める従業員は国民健康保険や国民年金に加入していることになります。
平成25年頃より、加入逃れしている企業への指導が強化され、厚生労働省と日本年金機構は平成27年度以後、約80万社程度ある社会保険に加入してない中小事業者に対して、以前より指導を強化することになりました。
年々増える年金保険料負担
50年以上前であれば社会保険料も1割程度であったのが、少子化と高齢化が進み今や3割もの負担を求められます(従業員の本人負担含む)。
平成28年9月以降は厚生年金保険だけで18.182%であり、健康保険は団体毎で変わりますが概ね9%(介護保険もあわせたら11%程度)になっています。
人件費の15%程度が事業主負担となっており、この負担だけで経営に影響を与える数字です。
経営状態が悪い企業ですと、滞納になりがちです。
かつて一部の社会保険事務所(今の年金事務所)で経営状態の悪い法人に全喪届のひな型を提供し、偽装脱退を唆したような報道もされました。
会計検査院調査でも休業の扱いで全喪届を提出していた事業所が多いことが発覚しています。
マイナンバーの導入を機に
平成28年からのマイナンバー関連法施行で、個人番号だけでなく各法人に法人番号も割り振られました。
日本年金機構が全法人の管理を目指すために、国税庁より法人のデータを得て加入指導の資料にしています。
マイナンバーの導入をめぐる関連法案成立は政権交代後の自民党政権時代(平成25年)ですが、民主党政権末期の平成24年には大枠ができていました。
自民党政権時代から検討されていた納税者番号を、旧民主党が社会保障との共通番号に発展する形で審議開始されました。
「社会保障と税の一体改革」の一環として、消費税増税だけでなくマイナンバーの導入も話が進みました。
また同時に社会保険未加入の企業は、「違法業者」として、こちらも民主党→民進党も大きな問題としており、自民党政権になった後も政府は引き続き加入指導を強化していくことになりました。
建設業は仕事の受注にも影響
こちらも民主党政権の平成24年より、国土交通省と厚生労働省が組んで対策がされています。
各種法人の中でも、建設業がなぜ未加入問題の重点的な対象になっているのでしょうか?
1つは若者がなりたがらず、さらに東日本大震災の復興や東京五輪準備などが追い打ちをかけて人手不足の産業になってきたことが挙げられます。
また、社会保険料の重い負担がのしかかる加入業者ばかりが廃業し、公正な競争が妨げられることも考えられます。
具体的に一定規模以上の工事に携わる建設業者は建設業許可をとる必要がありますが、都道府県への許可申請時に社会保険加入を求められるようになりました。
許可申請時点で加入必須というわけではない都道府県が多いのですが、加入指導がされます。
許可申請時に社会保険の保険料納付(領収済みの納付書等)や資格取得に関する証明が求められます。
また、経営事項審査の評価にも社会保険加入が影響し、社会保険加入業者でないと減点されてしまいます。
従来から減点はされていましたが、減点幅が大きくなりました。
公共事業の受注には経営事項診査を義務付けられていますので、社会保険未加入業者が仕事の受注に影響するようになりました。
短時間労働者の社会保険適用拡大というもう1つの脅威も
こちらに関する厚生年金保険の改正法も、民主党政権時の平成24年に法案成立しました。
いわゆる「106万円の壁」というもので、下記の要件に全て当てはまる従業員は、社会保険の資格取得をすることになります。
・所定労働時間が週20時間以上
・雇用期間1年以上
・月収88,000円以上
(学生は対象外)
従来は、下記の要件の方のみが対象者でした。
・週所定労働時間が正社員の3/4以上
・1ヵ月の所定労働日数が正社員の3/4以上
・雇用期間2ヵ月以上
短時間労働者の適用拡大は、従業員501人以上の事業者は平成28年10月から開始となり、これまで社会保険未加入だった企業の多くはまだ直面していません。
しかし平成31年9月までには、500人以下の小規模事業所も対象になることが検討されますので、さらなる社会保険料の負担が求められることも考えられます。
社会保険負担が難しければ「個人成り」していく方向も
適用事業所にならなければ、2年間の社会保険料を遡って支払うことになる強硬措置です。
年金事務所に督促されても無視することを繰り返すと、企業は実地調査され遡及徴収されます。
マイナンバー導入とリンクしての加入指導ですから、全法人が適用事業所の時代も来ると想像されます。
どうしても社会保険を支払いたくなければ、従業員5人未満であれば個人事業主になるという選択肢がありますし、飲食店や美容業などであれば個人事業所である限り何人雇っても加入しなくて済みます。
個人成りして法人を廃業する分には年金機構も文句は言えず、社会保険の負担を避ける場合正攻法とは言えます。
ただし個人成りする場合、税務や労働保険等の手続きが必要になりますし、営業許可の取り直しになることもあります。
また取引や借入するにあたって、企業の信用にも関わる可能性も考えておく必要があります。
業務委託の活用には注意
代表者自身が個人成りするのではなく、従業員との雇用契約を見直して、業務委託契約(請負契約や委任契約)の形で活用していく方法もあります。
これは外部の業者と取引するのと同じですので、自身を除いて社会保険に加入させる必要は無くなります。
ただ業務委託と雇用は全く別の概念ですので、労働基準監督署・裁判所・税務署などの機関で実質雇用契約とみられる可能性もあります。
受託側が例えば下記のような要件を満たすように活用することがポイントです。
・労働時間のような時間の拘束を受けない
・業務に対して選択権があり、また他の業者からも業務を受けることができる
・自ら材料等の負担をする
・料金を設定して請求できる
このやり方の注意点は、形だけ業務委託にして契約書を結んだとしても、それだけでは脱法的な加入逃れと受け取られることです。
年金機構はこの観点からの調査は積極的とはいえませんが、マイナンバー導入を機にこの姿勢を変えていくことは考えられます。