約10年前のお話です。鋳造工場に派遣として勤めだして一年が過ぎたころ以前、一緒に働いて人間関係が原因で辞めたブラジル人のMが、彼と同じくらい体格の良い男性を連れて工場に現れました。普通なら会社が求人を出して、それを見た求職者が面接を申し込むものだけれど、その工場は普段から仕事のない外国人労働者や、暴力団に関係していた日本人男性などが雇ってくれと連絡もせずに直接会いに来ることが多々見られました。_x000D_
Mは工場を辞めた後すぐに別の工場で働き始めたけれど一か月で辞めてしまい、またここで働きたいとのことでした。結局「Mは辞めてから一年以上経たないと雇えない」と社長に言われてMと一緒に来ていた男性だけ翌日から働くことになりました。Mと同じ30代の外国人労働者だと思っていたら、19歳の青年で小学校低学年の頃にブラジルからやってきた日系ブラジル人でZという名前だと紹介されました。_x000D_
Zは170センチある私よりも大きく、100キログラム近くある私の体を軽々と肩に乗せて歩けるくらいの巨漢でした。19年しか生きていないけれど、両親の離婚や学校での先生からのイジメ、中学卒業後は知り合いから頼まれて借金取り立ての手伝いをしたり、親元を離れて共同部屋で暮らしながら派遣の仕事をしたりと彼の短い人生は複雑で辛いものだったそうです。そんな彼にも一緒に兄宅に住む一歳上の彼女がいて毎日ノロケ話を話してくれました。そういうときのZは普通の男の子に見えて微笑ましかったです。Zの彼女も外国人労働者として日本で働いていると教えてくれました。_x000D_
Zと共に働き出して一年後、Zは社員になり500万の車を買った。そして同時期にベトナムから外国人研修生が3人やってきました。外国人研修生とは、3年間の期限付きで日本で働きながら技術を習得するためにやってきた外国人のことで、工場にやってきた彼らは賃金を貰いながら仕事を習得するとともに日本語も勉強し、試験も受けなければならないそうで大変らしい。私の班にはOという20代の青年が配属された。3年後、賃金とは別に大きなお金がもらえるそうで、Oはそのお金で赤いスポーツカーを買いたいと話してくれました。_x000D_
Zは年下だったけれどOに優しく接し面倒を見ていた。自分と同じような境遇のOを放っておけないと思ったのかもしれません。二人は昔からの友達のように仲良く付き合っていたが、数か月後、その関係が終了する。_x000D_
ある朝出勤して作業場に行くと、ZがOを追い回していた。最初は追いかけっこでもしているのかと思ったけれど様子がおかしい。二人が近くに来た時にZにどうしたのか聞いてみました。Zはものすごく怒っていて泣きながら話してくれた。前日の仕事終わりにOを誘ってZとZの彼女とコインランドリーに行ったらしい。洗濯をしているあいだZの彼女は用事で家に戻り、Zは自分の車の運転席にOを乗せてあげ、直後に何を間違ったかOを乗せたまま車が急発進。買ったばかりの車は建物の壁に激突したのだそうです。運の良いことに周囲に人はなく、ZはOの身を隠し自動車保険会社の担当者に電話し、自分が事故を起こしたと報告した。_x000D_
私はZは優しくて頭の良い人だと思いました。違法だけれど本当のことを報告したらOは最悪ベトナムに帰国することになるかもしれないし保険金が出ずに車の修理ができないかもしれないと、事故が起きてすぐにそう考えついたのだそうです。それなのにどうしてZがOを追い回しているのかというと、事故を知ったZの彼女が「Oから修理費をもらえ」と怒り出し、貰えないならZと別れるとまで言われZは精神的に追い詰められてしまったようです。_x000D_
その日の昼休みZは恐ろしい行動に出る。工場近くにある一軒家の自宅にOを連れて行ってしまった。連れていかれれるOは怯えていて、私はそのとき恐怖で体を震わせる人間を始めて見ました。嫌な予感がして上司に報告したけれど相手にしてもらえず何もできずに午後からの仕事が始まる。戻ってきたOは行く前よりも激しく体が震え怯えきっていました。Zに何をしたのか尋ねると、修理費を払うように言ったが無理と言われ、玄関に置いてあった魚を捕るモリを足に突き刺したのだと答えました。_x000D_
そんなことをされてもOに払える力はなく、Zは社長や上司に訴えたが会社には関係ないと相手にされなかったそうです。最終的に保険から修理費がでたため、うやむやのまま終わってしまいました。その後の二人は以前のように仲良くすることはなかったけれど、丁度良い距離感を持ちながら付き合っていたように思います。Zは彼女と別れることなく毎日、二人で外食を続けていると教えてくれました。私はそれから数か月後に工場を辞めたので後のことは知りません。_x000D_
_x000D_
ブラジル人のZとベトナム人研修生Oの話
更新日: