団体職員との連携体制が、外国人技能実習制度を活用していく上でとても重要です。
団体職員との体制構築の理想と現実、体制づくりについて、社会保険労務士の先生からの体験談をもとにまとめています。
団体職員てなに?はじめに
私は現在、社会保険労務士事務所を開業しておりますが、10年ほど前まで食品加工会社に労務担当者として勤務し、現在もお客様となっていただいています。
その会社では外国人技能実習制度を利用しており、中国人研修生時代から受け入れていたという経験をもっています。
また、ある団体職員として監理を実施した経験もあります。
今回は外国人技能実習制度受け入れから帰国までの対応に携わった者としてこれから導入を検討される企業様にご注意すべきポイントをお伝えしたいと思います。
さて、団体職員としては悲しいですが、一般の方が見聞きするこの外国人技能実習制度の印象は、テレビや新聞等で取り上げられる技能実習生に対しての低賃金長時間労働といった労働問題や、セクシュアルハラスメントやパスポートの強制保管といった人権問題など、負のイメージが強い方もいることでしょう。
このような問題が起きてしまう原因はなぜ起きてしまうのでしょうか?
外国人技能実習制度を利用したいと希望する会社毎にその理由・目的は違いますが、制度を正しく理解することで企業様にとってプラスに活用することができるように少しでもご助力できればと考えています。
外国人技能実習制度の利用に当たって制度の理想とするところとは団体職員との三位一体の体制
まずはじめに、 外国人技能実習制度とは本来どんなものでしょうか?
日本が先進国である役割の1つとして、発展途上国に対して国際協力、国際貢献をしていくということ
具体的には、日本の企業が発展途上国の若者を技能実習生として一定期間雇い入れ、その期間を通じて実際に作業をすることで技能、技術及び 知識を修得してもらいます。
実習期間の終了後、母国に帰国した彼らに、修得した技能、技術及び知識を母国の経済発展に活用してもらうことを目的とした制度なのです。
このような人材育成を支援することによって発展途上国に対して国際協力、国際貢献の実現を目指している公的な制度が、外国人技能実習制度となります。
さらにこの制度の理想像について言及ば、この外国人技能実習制度とは、人材育成を介した国際協力・国際貢献に協力するためのボランティア活動であるという考えが大原則にある制度ということです。
外国人技能実習制度にはいくつもの規制があるので団体職員との連携が必須
規制があることは島国日本では仕方のないことです。
なぜなら、外国人を入国させるということ、その入国の在留資格は就労を目的としない「研修」であること、そのような実習生を雇い入れて技能実習(労働)をするという、矛盾しないのが不思議なバランスの上に成り立っている制度だからです。
この不思議なバランスが制度として崩れない理由は、まさしく国としておこなう、国際協力・国際貢献という善意のボランティア活動だからこそです。
そして、この島国ならではという部分が、団体職員という立場の方たちとの関係でもあります。
まずはこの大前提を受け入れてから、外国人技能実習制度を理解してみてください。
しかし、その微妙なバランスを崩す要素があります。次の章でその点について考えてみます。
外国人技能実習制度を利用するに当たり、この制度の現実について
ここで、みなさまに確認しておきたいことは、みなさまがどのようにしてこの外国人技能実習制度を知り、何を目的として活用を検討するのか、受け入れるために、何を準備する必要があるのかということを、実施する前にしっかりと考えておいてほしいということです。
前章での、この制度の理想論に対して本音の部分について触れていきたいと思います。
重要なことは、この本音は実習実施機関側の企業はもちろんあります。
しかし、見落としがちになりますが、実は外国人技能実習制度に関わるその他の技能実習生、送り出し機関、受け入れ団体職員の側にもあるということです。
この外国人技能実習制度に携わる JITCO 、受け入れ団体職員の説明を調べてみると、技能実習生を送り出す側、実習実施機関側ともに概ね次のようなメリットが建前としてあげられています。
この制度を取り入れる上で、団体職員よりももっと上位の重要な存在があります。それがjitcoになります。
jitcoについて、詳しくお知りになりたい方はこちらをご覧ください。
技能研修生を「送り出す側」のメリットについては、
(2)技能研修生の送り出し国としては、技能研修生が修得した能力や知識、技能を活用することで、事業活動の改善や生産性向上など、母国の経済発展に貢献できます。
(3)実習実施機関等にとっては、外国企業との関係強化、経営の国際化、社内の活性化、生産に貢献できます。
「実習実施機関」である企業のメリットについては、
- 実習計画に基づいているため、 計画期間内の雇用が安定していて、定着も見込めます。
- 技術や知識の修得に熱心な技能研修生を受け入れることで、職場が活性化し、生産効率の向上します。
- 若く、労働意欲旺盛な技能研修生は、強力な戦力になります。
- 実習実施機関の将来の海外進出に際しての経験となります。
私の団体職員としての経験から得たそれぞれの立場の方の本音は次のようになります。
私が技能実習生達との日頃のコミュニケーションや、実習実施機関としての会社内での人手確保対策としての情報交換をしてきた中で得てきたものですので、偏りがあるかもしれませんが、一例になるはずです。
- ほとんどの研修生にとっては、悲しいことに、この制度はただの「出稼ぎのための制度」です。
- 送り出し機関(国)としては、送り出し機関は営利団体の場合もあるため、利益を得るための企業活動であり、国としては外貨の獲得があります。
- 受け入れ団体の職員は非営利団体ではありますが、実績と予算、そしてその存続意義に関わります。
- 実習実施機関である企業は、安価な労働力の確保が一定期間安定して見込めることは非常に魅力的です。
(2016年当時の筆者の感想です)
正直なところ、団体職員当時の私のこの制度に対する理解は本音の側がほとんどでした。
この外国人技能実習制度を利用する実習実施機関側の労務担当者として、団体職員として関わった身であり全くもってお恥ずかしい限りです。
ですが、この認識で技能実習生との会話、打ち合わせはもちろんのこと、実習実施機関としての会社内、受け入れ団体の職員の方達とも問題無く、むしろそのための打ち合わせをしてきた、できていたということです。
特に当時は(2006年ごろ)技能実習生の賃金の基準は最低賃金法の金額よりも低くても許されていた時代でしたから、お得で便利な制度があるものだ。
そういう制度だし、お互い納得の上なのだから、団体職員も実習生もお互い様でありがたいという認識でした。
このように、外国人技能実習制度の理想像と本音の状態が入り交じり、それぞれの立場に合わせて都合良く解釈を変えられていることが、外国人技能実習制度がバランスを崩している原因ではないでしょうか。
これから技能実習生の受け入れを検討している方へ
これから技能実習生の受け入れを検討している皆様に外国人技能実習制度を利用するに当たってご提案したい 注意点をご紹介します。
これはあくまでも私個人の考えではありますが、技能実習生を受け入れることで会社にとってのプラスにしていきたいとお考えでしたら、参考の一つになるのではないでしょうか。
外国人技能実習制度を利用するにあたって、理想像に対応していくことはとても大切
受け入れ団体職員はこの外国人技能実習制度を紹介する際に、理想像について、十分に説明をされたでしょうか?
本音の部分については、この上なく魅力的な制度ですが、この制度の根幹は理想像の実現にあり、そのため厳しく規制されています。
- 安易な「団体職員がプロなので大丈夫です」や「受け入れ団体職員がフォローします」等の無責任な甘い営業トークを信じてはいけません。
- 実習生を受け入れるのは、通常の従業員を雇い入れをする以上に慎重に選考をして下さい。
- きちんと会社側の希望する人物像、諸能力のレベル等を検討して、受け入れ団体の担当者に伝えて下さい。
無関心や、担当者に対して適当に見繕っておいてくれ等は正直論外です。
良い言い方ではありませんが、適当に(いいかげんに)余った技能実習生を配属されてしまうでしょう。
もし、受け入れ団体の職員が「任せておいてください」や「みんないい子です」という言葉があったとしても、一番に責任を問われるのは実習実施機関である企業です。
外国人技能実習制度において生じている問題の中には、受け入れ側の団体職員の一部の職員にも、制度の理想像を理解せず、いいかげんな対応をしてきたことが原因の1つです。
その一例として2015年の6月に中国人技能実習生が、茨城県の農家をセクハラや賃金未払いで提訴した事件があります。
事件記事を読み、疑問に感じることは、この事件の内容は人手不足の解消のため、已むに已まれずといった類のものではありません。
外国人技能実習制度の理想像、そして本音の部分も含めたとしても許容できるものではなく、根本的にヒトを雇い入れる資格のない実習実施機関でした。
なぜこのようなところが実習実施機関なり得たのか?ということです。
受け入れ前に、この農家は外国人技能実習制度について、正しく説明を受け、自身で対応ができると考えたのでしょうか?
受け入れ団体職員の側についても、正しく説明をおこない、この農家が対応できると感じたのでしょうか?
この件をはじめとして、実習実施機関が主体的に動くこと無しに外国人技能実習制度を利用し、本音の部分だけを甘受しようと暴走したために起きてしまった問題に他ならないのではないでしょうか。
こうならないためにも、外国人技能実習制度を利用するのであれば、実習実施機関が主体的に考えて動くことが必要になります。
受け入れ企業が主体的に動くには、どうすればよいか?団体職員の言いなりにならないこと。
労働法令(36協定や就業規則等)は整備されているでしょうか?
現在の仕事上、中小企業の労務担当者、経営者の方とお話をする機会もありますが、作る暇がない、又は作っていてもその当時から改正が一度もされていないということはよくある話です。
技能実習生の受け入れを希望する際には確認をされるポイントになりますので、必ず作成、改正をおこないましょう。
専任の人事・労務担当者はいらっしゃいますか?団体職員は助けてはくれません!
中小企業で見受けられるのは、社長や社長の奥様が片手間で対応されている場合が時折見受けられます。
しかし、技能実習生を受け入れると、彼らに仕事を教えることや、彼らの労務管理をおこなうことはもちろん、普段の日本での生活の手配を受け入れ企業側がおこなう必要があります。
宿舎にはじまり、ガス、水道、電気が使えるようにするところから、必要に応じて役所への諸手続き等々があります。
職場の教育担当者と生活指導の責任者は兼任することは出来ません。
雇用保険への届け出が必要なのを知っていますか?団体職員の仕事ではなく御社の仕事です。
平成19年10月より外国人を雇用した際の届け出義務が加わりました。この届け出漏れには厳しい罰則が付いていますので、必ずおこなうようにして下さい。
このように正しく外国人技能実習制度を運用するためには多忙な事柄に対応できる体制作りが必要になります。
実は、ここで作ろうとしている体制は現在、国から求められている労働環境の整備に他なりません。
これを機に36協定や就業規則等について整備してみてはいかがでしょうか。
こうすることのメリットは、今回の話題としている外国人技能実習制度を利用すること以外にもあります。
助成金は、国が社会や企業にその施策を浸透させるために、助成金という付加価値をその施策に付けているのです。
つまり、労働環境を整備することは総合的に見てもプラスになることが多いのです。
日頃の仕事を通じて、労働環境の整備についての提案に対しては否定的なご意見をこれまでに様々伺いました。
「これまでは無くても大丈夫だった、問題無かった。」
「国の、役人の言いなりにならない」
「お前たちが儲けたいだけだ」云々。
ではなぜ、外国人技能実習制度の利用を検討し始めたのでしょう。
この先、日本人の若者の雇用は難しくなっていく一方です。
そして、すでに現状の雇用にに問題がある企業がほとんどです。
大企業からすでに積極的に制度を使い始めています。
国、役人の作った制度だから、という気持ちはわかりますが「労働環境整備」無しに人は雇えない。
これが国の出した結論です。どう捉えるかはあなた次第なのです。
ただ、この記事を読まれている方は、現状に立ち尽くしてはいられないと肌で感じているはずです。
あなたの経験から感じられる、その危機感は間違いではないはずです。
この記事を通じてみなさまの模索のお手伝いになれたならば幸いです。
或る団体職員の社労士より。
散漫になってしまいましたが、最後にまとめを
団体職員との技能実習制度の体制作り3つのポイントのまとめ
1.団体職員さんを有効活用して自社の応援団になってもらう!
団体職員さんは、もっとも御社の身近な専門家になります。
派遣会社や人材紹介会社ではないので御社の社業や、御社の業界、具体的な作業について詳しいとか、詳しくないという作業レベルで判断されるのは、とても無意味で時間の浪費です。
もちろん知識があるに越したことはありませんが、そんなことは団体職員さんを有効活用する目的からは無意味です。本当に無駄な思考となります。
団体職員さんに大切なのは、危機管理能力と外国人監理能力です。
その部分を評価し、尊重しなければ御社の応援団になることはないでしょう。紋切り型の指導で心から応援してもらえなくなります。
2. 団体職員さんの情報で法制度を理解しよう!
よい団体職員さんでも、どうしても法律や規則の説明は、紋切り型になってしまいます。
特に、外国人労働者の法制や毎年必ず少しづつ変化していっています。
こういった情報を入手し、分析する専門化が団体職員さんの理想像といえます。
逆をいうと、法律の変化に対して敏感なので、前回より突然厳しくなったという印象を受けることがあります。
そのような感情を受けた際に、どう対応するかがとても重要です。
「○○さん!!いつも最新の情報を勉強してきてくれてありがとう!!社内ではとても対応できないんですよ!ありがとう!ぜひ一度、社内で講習ひらいてくれないですか?」というのか・・・・。
反発して人格批判をしてしまうのか。。。。。ここに対人関係の分岐点が発生してしまいます。
法制度や規則は、決まりごとなので変更はできません。 ぜひ、団体職員さんの知識を教えていただいて社内に取り込んでしまいましょう!
そのようにしてしまうことで、御社の体制作りの知識共有はぐっとアップします。
このような教材を使用して行うと更に効率的に学習が進むかと思います。
3.団体職員さんの仕事を理解して効率化する発想をもちましょう!
団体職員さんの仕事と役割を理解しましょう。
団体職員は、派遣会社でも人材紹介会社ではありません。人材の勤務には責任はありません。
団体職員は、営業マンではありません、御社のサポーターであり応援者です。
団体職員のアポイントは、監査です。相手のアポイントを優先させるようにしましょう。
団体職員は、多くの会社の監査をしています。面倒な企業を嫌うのは仕方ないことです。
団体職員にとって監査先の会社様はお客様です。しかし、自立的でない企業、他責にする企業は重荷なのです。
団体職員にとって法律の変化は、生命線です。いつも説明と理解させる方法に悩んでいます。一緒に同じ目線で変化を受けれてくれる企業を応援します。
団体職員にとって法律が後出しジャンケンしてくる時は、破滅の時です。 しかし、団体職員にはどうにもできません。法制の後だしジャンケンを共に乗り越えていける企業様を応援します。