11月1日施行の外国人技能実習制度改革によって、新たに「介護」が職種として追加されました。
これを受けて、「外国人介護人材の採用課題と展望」というセミナーが11月6日に一般社団法人介護事業操練所の主催で行われました。
会場の東京国際フォーラムには50名の会場が満席となり、外国人介護人材への関心の高さがうかがえました。
以下が詳細です。
イベントでは熊田氏、八木氏の順番でそれぞれ講演がございました。
技能実習制度と外国人介護職受入れの概要
講師:一般社団法人WAinternational 代表理事 熊田篤嗣 様
1時間という限られた時間で「外国人技能実習制度」の概要をわかりやすく伝え、その中でも今回のテーマである介護職への受け入れについて、ご自身の人材受け入れのご経験から、ポイントを絞って伝えられました。
気になるポイントとしては
東南アジアには「介護」という概念がなく、現実の募集は「准看護師」として行われている。憧れの経済大国日本でナースとして働くつもりで集まった人が、介護の仕事を本当にやりたいと思いますか?丁寧に仕事の説明をすると、残るのは2~3割です。このような意図的な誤訳が人集めの目的で現地で行われている可能性が高い。
このような警鐘を鳴らされていました。
業務内容とのミスマッチもまた「脱走問題」の大きな原因になるとのことです。
以下は、概要になります。
なぜ外国人人材か?
まずは、少子高齢化による日本の労働力人口の急激な減少。そして、経済の国際化による海外ビジネスに有用な人材の確保。さらに、途上国の若者の勤勉な労働力と経済発展支援のための「人づくり」への貢献といった理由から、「外国人人材」を雇用する社会は必然だと訴えました。
外国人が日本に滞在するためには?
在留資格の暗転から「就労可能」かどうかの判断、そして技能実習制度も含めた、主な外国人人材受け入れの制度について、説明が行われました。
技能実習制度の現状とポイント
現状は2016年の上半期の新規入国者数 51,100人
その内訳は、ベトナム人が約20,000人、中国人が約16,000人、フィリピン人が約5,000人とのことです。
この3か国で7割を超えていることがわかります。中でもベトナム人がここ数年で急激に伸びてきています。
技能実習制度の光と影の部分を見てみると
光の部分
- 日本からの技能移転という国際貢献
- 日本での不足するマンパワーを補う
影の部分
- 実習生を騙すブローカーの存在
- 失踪という現実(2015年 5,800人超)
注)失踪の人数は累計であり、2015年時点で日本に滞在している約20万人に対してではない。
外国人介護人材の受け入れ方
「技能実習生」「在留資格 介護」「EPA]の3つがある。
介護技能実習で認められる業務としては
- 必須業務:身体介護(入浴、食事、排せつ等の介助等)
- 関連業務:身体介護以外の支援(掃除、洗濯、調理等)、間接業務(記録、申し送り等)
- 周辺業務:その他(お知らせなどの掲示物の管理等)
※上記必須業務を全業務時間の2分の1以上実施することが必要
※周辺業務は、3分の1以下程度としなければならない
この中でも特に1年目から2年目に移行する「技能実習生」の日本語要件「N3]については、現実的ではないとの見解を強く示していました。
フィリピンダバオ市に於ける介護人材育成の取り組み
講師:日本フィリピンボランティア協会 会長 八木眞澄 様
フィリピンの事情についてご講演いただきました。
- フィリピンは資源も産業も少ないことから、国家も後押しして海外に人材を供給することを推進しています。
- そのため、エージェンシーが発達している。英語が通じるのも現地でのトラブルを起こしにくい原因です。
- フィリピンの学校は日本と同じ3月に卒業を迎えるので、日本で働くには就職の時期と重なり好都合な国です。
- 日本語要件のN4はじっくりやれば誰でもとれますが、N3は相当高い目的意識を持った学生でないと取得は難しい。
- N3があればマニラの日本企業にフィリピンの大学教授の3倍の給与で働くことができる。
印象的だったのは
フィリピン人の方が細やかに高齢者のケアをしていたことが、英語表記の申し送りノートからわかったんです。言葉の壁なんかよりもっと大事なものがあるのではないかと思うんです。
現場にボランティアで派遣した経験ならではの視点ですね。
以下は、概要になります。
日本フィリピンボランティア協会の取り組み
相互補完活動
- ボランティアで日本を助ける取り組みとして「フィリピン版海外青年協力隊(POCV)」を立ち上げ、日本の介護施設等へ派遣
- 「介護の日本語」作成、日本式介護の指導者を養成
- 軽度の介護の必要な方をダバオでの短期・長期滞在サポート
- ダバオ市でフィリピン人による日本人向け介護の実践(ドミトリー介護)
ミンダナオ国際大学の実績
- 日比の懸け橋となる人材教育
- 社会福祉学科がEPA経済連携協定において、介護福祉士候補59名来日のうち、17名国家資格合格
- フィリピン全国日本語弁論大会 常勝
- 日本語能力試験(JLPT)合格者直近5年で500名越え
提言
フィリピン版海外青年協力隊(POCV)隊員の意見やEPA研修生の意見を総合すると、
言語による意思疎通の不便さはあるものの(両者ともに非常に高いレベルではあるが)
介護に対する取り組みや細やかな配慮において、フィリピン人日本人に劣るどころか優れている点が多々見られた。
その証拠に英語を理解するスタッフがいる施設では、申し送りのメモにはびっしりと細かい配慮のある記述がなされており、レベルの高さに介護職マネージャーが驚いていたという。
日本は厳しい日本語の要件が大切なことだとする傾向があるが、実際は英語などを通じてでも自ら歩み寄り、フィリピンの力を借りるという姿勢が大事なのではないかとの提言をされていました。
(参考)POCVのアンケート調査
※5年間 51名中集計済み25名分 上位5項目抜粋)
- 初めて来たときの印象【進歩・美しい・清潔】
- 日本の良いところ【高い生活水準・雇用機会・勤勉】
- 日本の悪いところ【差別・物価・核家族の弊害】
- フィリピンとの違い【雇用機会・給与・物価】
- 日本で困ったこと【言葉・気候・ライフスタイル】
- 日本で一番つらかったこと【悪印象・ジャパユキ・入出国手続き・人間関係】
- 日本語が通じずどんなことで困ったか【スタッフ/高齢者との会話・報告・質問・業務関係】
- 誰に聞いたか【スタッフ・一緒に来ているボランティア・電子辞書】
- 老人ホームで一番困ったことは何ですか【体重の重い人の移乗・興奮状態の高齢者の介護・コミュニケーション(日本人スタッフ、漢字の判読)】
まとめ
外国人技能実習制度に介護が追加されることによって、配属までの日数が短くて、膨大な介護ニーズに対応できるとの期待は大きいが、その要件としての「日本語検定」は実態からすると、要件がずれているように感じました。
フィリピンの学生によるボランティアの結果を見ても、言語以外の「良さ」を引き出し、効果的に活用できる土壌が作れると、我が国の介護に少しでも明るい兆しが見えるのではないかと感じました。
しかしながら、本制度はまだ始まったばかり、今までの朝令暮改の制度運用を鑑みると、慎重にならざるを得ないというのが現状ではないでしょうか。
本セミナーの主催は:
一般社団法人 介護事業操練所
代表理事は三上博至氏です。
介護人材の入国後のセミナーなども行っています。
▼お問い合わせ下記へ
取材記事に関してのお問い合わせは「外国人労働者新聞」へお願いします。